【連載】不登校的ライフスタイル中学生のためのライフプランニング⑤〜通信制という学びの選択〜
このシリーズは、現在それぞれの事情で不登校というライフスタイルを選択している中学生を対象に、これから先の未来をどのように考えていけばいいのかを連載でやさしく語っていただきます。
第5回は近年人気が高まっている通信制について、見落としがちなポイントも含めて語っていただきました。
第5回 通信制という学びの選択
『不登校的ライフスタイル』を経験されたみなさんに向けて、ここ数年来、通信制の学びへの誘いが活発に行われています。SNSを開けば、次々に開校される様々なタイプの通信制を活用した学校の紹介画面が現れてきます。これらの画面にはみなさんにとってとても魅力的なワードが端的に示されていることが多いですが、スマホやタブレットの小さな画面に現れる情報はその学校の一部の特色を示しているにすぎません。そういった言葉だけに惑わされることなく、本当にご自分の目的達成やライフスタイルに合っている学校であるのかを、きめ細かく確かめてみる必要があります。
面倒なことではありますが、複数の学校の情報の中からあなたにとってのメリット、デメリットを整理して比較検討をしていきましょう。
前にもお話ししたように進路選択に向けて、しっかり自分を見つめ自分の将来を見据えた上で考えなければいけないのですが、ここまで触れてきた様々なタイプの高校以上に通信制高校の選択は慎重に行う必要があると考えます。実際に途中でリタイアされるケースが非常に多いのが現実です。
学校選択にあたっては次のような点に留意をして考えていきましょう。
① 自己責任の学び
通信制の学びは原則として自己責任の学びです。
「縛られない」ということは「個々を丁寧に扱わない」ということにもつながります。もちろん学校によってこの点も様々ですが、「最低限のやるべきことをやれば単位が認定される」ということは自己責任で「やらなければ認められない」ということなのです。日々通学することがあたりまえの『ふつう』の高校でも各自の学びは本来的には自己責任ですが、実際には指示に従って流れに身を任せていれば、外れそうになった時には先生が執拗にお節介を焼いてくれるので、あまり自己責任を意識することなく卒業にたどり着くことが可能です。
通信制の高校の多くでは、必要以上のお節介をしないことが良さでもあるので、自己責任が求められるようになる訳です。そして、その部分を補う意味で、基本料金には含まれないけれど、たくさんお金を払えば丁寧に面倒を見てくれるという様なしくみの学校もある様です。
⇒このようなことを書きながらスマホで大手の通信制高校が発信している情報を見てみたら、きちんと丁寧に面倒を見て、90%以上の人が卒業しています、と謳われていました。私たちにはこのことの正否を確かめることは難しいですが、運営コストを考えると、誰でもが、安く、簡単に、利用出来て、丁寧に対応し、内容も良く、結果も伴う、などということが本当にあるとは考えにくいです。一般的には薄利多売というビジネスの手法では、品質は二の次になっても致し方ない面があります。生徒募集にあたってメリットを強調されるのは仕方ないことですが、デメリットについても正直に説明し、「~のニーズのある方に適した学校です」ということを正直に広報している所が信用に足る学校であると私は考えます。
② サポート校
①の延長線上でサポート校と呼ばれる学校も多く存在します。みなさんが学習に向けて自分自身ではコントロールしきれない部分を支援してくれる学校ということですが、この場合には二つの学校に授業料などを納めることになります。たくさんお金がかかるということです。もちろんお金を払っただけのケアをしっかりしてくれるようならば良いのですが、具体的にどのようなケアが付加されるのか、それが本当に自分に必要なケアであるのかを確かめてみることをお勧めします。
③ 広域通信制
学校所在地の周辺地域の居住者を対象にしているのが通常の通信制高校ですが、広域通信制という全国もしくは海外居住者までもターゲットにした学校も多く存在します。こうした学校の多くは本校の他、各地に拠点を置いて運営されていますが、欠かすことのできないスクーリングや試験がどこで行われるのかを確認する必要があります。「学校に来なくていい」は「あまり来なくていい」ということで「まったく来なくていい」ということでは決してありません。本拠地は都市部ではないケースも多く、スクーリングや試験のために交通費や宿泊費が多くかかってしまったり、合宿の様な形で運営されているケースもあり、「人との関わり」が苦手な方々には不向きである場合もあります。
④ 専門科目
『eスポーツ』をはじめとして、みなさんの目を引く科目が専門科目として、あるいは授業外の講座として学べることを「売り」にしている学校が多く見受けられます。様々なことが学べること、興味関心のあることを学べることは素晴らしいことだとは思いますので+αの付加価値としてとらえるならば、良いことであると思います。
ただし、私自身は以前から「流行りものの学び」にはリスクがつきものと考えています。ちょっとやってみる分には全く構わないのですが、高校卒業には必ずしもそればっかりやっていればよいわけではないということと、それを学ぶことで将来がどう広がっていくのかをしっかり見極めていただいて、そこの部分だけで安易に飛びつくことのないようにしていただきたいと考えます。また、その授業や講座の専門性が実際にどういうレベルのものかについてもよくよく調べてみることをお勧めします。
なお、『eスポーツ』引き合いに出してしまいましたが、『eスポーツ』について詳しいわけではないので、それを学ぶことの将来性や学びの発展性を考慮していただいた上で本当にあなたにとって大切な学びであるとお考えであるのならば、それを学校選択の動機としていただくこともあり得ると考えます。
⑤ 『人との関わり』は不要なのか
通信制のデメリットとして、「人との関わり」の機会を持ちにくいということが挙げられます。
「人との関わり」の苦手な方々にとっては有難いことでもあるのですが、その苦手分野を徐々に克服していくこともみなさんがこれから「経済的に自立」していくためには、(今の時代では必須とまでは言えませんが)、かなり大切な学びであるとは言えます。
『ふつう』の日々通学する学校では否応なしに、多くの「人との関わり」の機会を持つことが出来て、そこで多くのことを学ぶ(失うものもあるかもしれませんが)ことが出来るという部分があります。アルバイトなどをして社会の中で経験を積むことのできる方々には無用の心配になるわけですが、そのあたりを考慮して、HRも部活動も学校行事もあります、という様な事を謳っている通信制高校もあります。もちろん、必修事項としてではなく任意参加ということなのだとは思いますが、それらの活動が本当にどの程度利用価値のあるものかを確認しておくことも大切だと考えます。
⑥ 体系的に学べるか
一般的に通学型の高校では学校や授業者が教科・科目の目標に向かって体系的に授業を組み立ててみなさんの学びの機会を提供しています。しかし、通信制での学びの場合には、どうしても最低限の内容やみなさんが選んだ内容について、『切り取り』型の学習をすることが多くなってしまいがちです。みなさんが社会人・職業人として将来生きていくためには、体系的に物事を捉え考えていくことは欠かすことのできない素養となりますので、体系的に学び、考える機会を得にくいということはかなり大きなハンディキャップと成り得るということも押さえておかなければなりません。
また、『切り取り』の周辺や外側に実は学びの機会が沢山潜んでいるということもお伝えしておきたいと思います。
⑦ 進学実績の罠
大学進学実績を掲げて喧伝している学校もあります。これは、通信制に限らずどの高校にも言えることですが、それらの数字は必ずしも「生」の数字ではなくて、見た目が良いように上手く加工されているケースが非常に多く見受けられます。特進クラスの生徒さんにたくさん受験させて数字を稼ぎ、いかにもその高校に来れば誰もがブランド大学に合格できるように印象付けるという様な手法です。
通信制に話を戻しますと、実際に通信制高校には、勉強はとても得意で偏差値学力が高いけれど『ふつう』の学校というシステムになじめなかったり、嫌気がさしている様な方々もそれなりに在学されていて、「余計なことをしなくて良くて、余計なお世話もしない」通信制の利点を最大限に活用して、受験準備などを効率的に進めて、ブランド大学に合格していく方々もいらっしゃるということです。大学受験に合格するという目的だけに絞ってみれば、大変合理的な方法であるとも言えると思います。ご自分がそういうタイプであれば、自己責任で卒業資格を得ることも難しくないですし、それでよければそういう通信制の利用をされればよいと思います。しかしながら、多くのみなさんには、必ずしも当てはまらないことですので、そこに行けば自分がそうなれると安易に考えて学校選択されることはお勧めできません。
⑧ 運営母体
通信制を選ぶ時には、その運営母体にも注意を向ける必要があります。
都立の通信制課程は3校で1学年の募集人員は400名程度、入選は通学型の都立高校の入選が落ち着いた4月に入ってから行われます。(一部9月入学もあります)スクーリング日数を年間5日程度に抑えられるweb学習というシステムは導入していますが、それ以外には特別の取組はありません。
私立の中でも、比較的旧い時期から存在している東京都認可私立通信制高校が9校あります。各校ごとに時代に応じたシステム変更を行っていますが、比較的オーソドックスな運営をしている学校です。学校は学校法人が運営するのが通常ですが、教育特区という制度を利用して株式会社が運営しているものもあります。
また、通信制の種類としては狭域通信制は所在地プラス隣接する1都道府県が通学区域となるもので、3都道府県以上から利用できるのが広域通信制です。
サポート校は高校ではなく、あくまでも通信制高校に通う生徒や高等学校卒業程度認定試験の受験者の学習を支援する教育機関です。従来の学習支援にとどまらず、専門学校が母体となって専門学校での学修と通信制の学びを併修するような学校や予備校が母体となって大学受験準備を併修するような学校、社団法人が母体となって発達特性のある方々の支援を行う学校等経営母体の特性を生かした様々な形態の学校があります。
⑨ 通信制は最初の選択肢になるか
実は最も根源的な問題として「最初から通信制を選択肢とする」のかという課題があります。
つい数年前まで、通信制高校の主な役割は『セーフティネット』として、通学型の学校に行き先が見つけられなかった方々や通学型の学校に入学したけれど様々な事情で中途退学を余儀なくされた方々を救い上げるということでした。従来『不登校』とカテゴライズされた方々の多くはこの様に一端通学型高校への入学を経てから、通信制に移行していくということが多かったわけです。レアケースとして芸能関係の仕事をされる方が芸能活動を円滑に行っていく為に利用されるということがありました。最近ではこれにアスリートや芸術家として若い時期から専門性を磨かれる方々も加わり積極的に通信制を選択される方も増えてきているわけですが、本稿の主テーマである『不登校的ライフスタイル』が市民権を得たことで、『不登校的ライフスタイル経験者』の方々にも「最初から通信制を選択肢とする」ことが一般化してきたわけです。
本稿では『不登校的ライフスタイル経験者』の方々のライフデザインに向けて中学卒業後の進路選択というタイミングが『ふつう』のライフスタイルへの移行への大きなチャンスであるという主旨でお話してきました。そういった意味で、多くのみなさんにはその後の人生の選択肢を狭めない意味で従来型の『セーフティネット』としての利用をお勧めしたいと思います。つまり、自分の現状に合っていると考えられる通学型の高校への進学を検討し入試にチャレンジしてみた結果や、実際に一度自分に合っていると思われる通学型の高校に入学してみて、やはり適応しきれなかった場合に、通信制の利用へのシフトチェンジをするということです。
それでは、どんな方々に「最初から通信制を選択肢とする」ことが向いているのかを考えてみます。
⑩どんな生徒が通信制を選ぶべきか
▪️病気や重い身体症状などをともなっていて、日々の通学というライフスタイルへの移行が物理的に困難と考えられる方々
▪️既に述べた、偏差値学力は高く、自己責任での学びに十分対応できるけれど、従来の通学型の学校というシステムにはどうしてもなじめない面がある方々。
▪️上記の芸能活動をされる方々、エリートアスリートやエリート芸術家を目指される方々はもちろん、それに準ずる形で「自分のやりたい何か」をしっかりとお持ちで、その目標達成のための準備を優先させていきたいと考えられる方々
▪️様々な発達特性によって、『ふつう』の通学型の高校ではなかなか受け入れてもらいにくいが、特別支援教育を選択するのではなくあくまでも『高校卒業』にこだわられる方々
▪️『学校での勉強』を本当はもうこれ以上したくはないけれど、『高校卒業』資格は、とっておかなければと考える方々
以上の様な方々は、最初から積極的に自分の現在の状況や将来の見通しに出来るだけ合っている通信制高校を探されるのが良いと考えられます。
最初にもお話しましたように、『不登校的ライフタイル経験者』のみなさんをメインターゲットにした教育機関運営に多くの企業などが次々に参入しており、インターネットやSNSにそれらの情報が溢れています。そんな中であなたにとっての最適の学校を探していくことはとても難しいことです。
私も目に付いた良さそうな学校を選んで、その実態を確かめるべく訪問見学をさせていただき、特に発達特性や学力不足でお困りの方々にお勧めできる学校を探しており、実際にお一人お一人に非常に丁寧に対応されている通信制学校の存在も確認しています。
そうした中で、一つ確かなことは、そういった取組を行っている学校は非常に経済効率が悪い運営になりますので、規模を広げたり、広報にお金を使ったりすることはできなくて、地道にコツコツ運営されおり、当然知名度は上がりにくいということです。
SNSを見ていると、通信制の学校選択を支援するサイトも多く見かけます。これらの多くは、必ずしも客観的な立場で運営されているわけでは無く、ある程度個人情報を明かさせたうえで、最終的には、特定の学校に誘導していく様な仕組みになっているものが多いことを指摘しておきたいと思います。
蛇足になりますがさらに2つ付け加えます。
スマホ一つで様々なことが完結してしまう現在、『情報選択能力』は非常に大切な『生きる力』となります。「闇バイト」に象徴されるように簡単であるために、簡単に人生を台無しにしてしまうことも出来てしまいます。みなさんの大切な選択の機会に出来る限り良い選択が出来るように情報を活用していきましょう。
選択をする時に、簡単な方(楽そうな方)を選ぶのか、難しそうだけれど(面倒くさそうだけれど)内容がよさそうな方を選ぶのかという問題があります。あくまでもこれは私見ですが、簡単な方が取組みやすくうまくいく可能性が高いと言えるかもれませんが、難しいことの方が最終的に得られるものが多かったり、質の高い結果を得られることに繋がりやすいとも考えられるのではないでしょうか。これも個々のポリシーの問題なので、どちらが正解かはわかりませんが、そんなことも頭において考えてみてください。
最後に
さあ、みなさんの人生でおそらく初めての大切な選択の機会です、自分自身をしっかり見つめ直した上で将来を見据えて、オンラインの情報だけに惑わされることなく、出来る限り自分の目で確かめながら、周りのおとなの意見も参考にした上で、自分の責任で最終判断していってください。
そして、自身が選んだ道に入ったら自分にとって最適な道であると考えて、簡単に諦めずに自分を磨き将来を切り拓いていってください。それでもうまくいかなかったら、もう一度考え直し、選び直せば良いだけのことです。『やり直し』は決して失敗ではありません。どこで学ぶか、よりも何をどの様に、自分自身で考えながら学び続けていくのかの方が大切なことであると思います。
常に自分をふりかえり、修正を加えながら一歩ずつ前に進んで、自分の人生を自分自身の手で創っていきましょう。
(連載おわり)
◎著者紹介
宮川隆史 (ミヤカワ タカシ) 先生
・元都立高校校長・元上海日本人学校高等部校長
・現在は都立学校副校長マネジメント支援員、通信制高校非常勤講師
・社会科から家庭科に転科し、ジェンダー問題がもう一つのライフワーク
・ボランティアで中学生の進学相談員を15年以上続けている
・世田谷泉高等学校の立ち上げに関わったほか、教員として、管理職として、また親としても不登校事例に対応してきた