【連載】「高校の選び方」③〜学校の違い〜
教師として、また子育てを終えた保護者としての経験をもとに「高校の選び方」について、保護者と子ども両方に向け、イチから語っていただくシリーズです。
第3回は、公立と私立や共学と別学の特徴の違い、向いている生徒など具体的に語っていただいいています。
【第3回】 学校の違い
さて、みなさんにとって魅力的な学校は見つかりそうですか?
学校ってどこも一緒でしょ…
いや、実は違うんです。そこに、どんな生徒たちいるのか。何を学べるのか。何を学んでいるのか。何を目的に学校へ来ているのか。
今回は、「私立学校」と「公立学校」、「共学校」と「別学校(男子校・女子校)」の特徴についてみていきましょう。みなさんが思っている以上に違いがあるかもしれません。
前回もお話ししましたが「普通の学校」へ行きたいっていう人もいますよね。
でも、学校って全部普通なんですよ。
でも、区別はあります。
学校を設置する主体(だれが学校をつくったか)により
「公立学校」と「私立学校」
学校に通う生徒によって
「共学校」と「別学校(男子校・女子校)」
に大きく分けることができるかもしれませんね。
ではまず、「公立学校」と「私立学校」の違いは何でしょうか?
公立と私立の違い
公立の高等学校と私立の高等学校を比較すると、学費や授業内容、学校方針のほかにも異なる点がたくさんあります。
<教育方針>
1つ目の違いは教育方針です。公立高等学校と私立高等学校では、教育方針を定めている母体が異なります。
公立校は基本的に都道府県や市町村の自治体が運営しており、文部科学省が教育方針を定めています。そのため私立校と比較すると公立校は特色は少なく、どの学校も教育方針は似ています。
一方で私立校は法で定められた学校法人が運営しており、建学の精神に基づき学校独自の教育方針を定めています。そのため私立校は各学校が自由に方針を決めることができ、特色ある教育を展開しています。
そして、学校によって授業の内容も異なります。高等学校選びの際は、実際に学校見学や説明会に参加して、学校の理念や価値観が自分に合っているか確認しておきましょう。
<学費面>
2つ目の違いは授業料等の学費面です。
文部科学省「子どもの学習費調査(令和3年度)」によると、年間学習費総額に関して公立高等学校は約51万円、私立高等学校は約105万円となっています。
私立校の学費が高くなる理由は、授業料以外の費用も発生することが関係しています。2020年4月から私立校も、高等学校等就学支援金制度の対象となりましたが、こちらの支援金は授業料が対象です。そのため、学校納付金や入学金、修学旅行費などには適用されず、卒業までの学費が高くみえてしまう傾向があります。
学費を抑えて私立校に通いたい方は、国や自治体の支援制度を利用することや、各学校独自の特待生制度を確認してみましょう。
<授業カリキュラム>
3つ目はカリキュラムの違いです。
公立校は文部科学省が定めた学習指導要領に沿った授業内容のため、どの学校もカリキュラムは同じです。一方で私立校は、各学校独自のカリキュラムで授業が進行していきます。私立校のなかでも、受験対策を重点的に進めている学校では授業のスピードも速く、3年生の春には公立校3年間分の授業を終えている学校もあるほどです。私立校の進学校を考えている場合は、授業の進度について事前に確認しておくのもよいでしょう。
<施設設備>
4つ目の違いは施設設備です。
公立校は自治体が運営しているため、施設設備に多少の違いはありますが一定の水準を保っています。一方、私立校は施設費なども学費として徴収しているため、設備が充実している学校が多い傾向にあります。公立校では、校舎・体育館など設置されている建物やグラウンドの広さなど、施設規模に多少の違いはありますが普通科の高校であれば、大きな差は見られません。しかし、私立校では学校の特色によりさまざまな施設が設置されており、屋内プールや天文台、クラブ専用グラウンド、屋上庭園を設置している学校もあります。部活動の充実に力を入れており、施設設備に予算を充てて環境を整備する学校も多くあります。
施設設備が充実しているかどうかも、高等学校を選ぶ際のポイントの1つといえるでしょう。
<入学試験>
5つ目に異なる点は受験方法です。
公立校の入試は、多くの自治体で推薦選抜と一般選抜の2回方式を採用しています。1回目の入試は2月中旬に実施され、2回目の入試は3月上旬に実施することが多くあります。公立校の受験科目は国語・数学・英語・社会・理科の5教科で出題されます。
私立校の入試は、一般的に推薦入試と一般入試を実施の学校が多いようですが、学校によっては一般入試を複数回実施する学校もあるようです。公立高校より約1か月早く、2月初旬頃に実施されます。私立校の受験科目は、各学校により異なりますが国語・数学・英語・理科・社会の5教科、または国語・数学・英語の3教科で出題されることが多いでしょう。
内申点に関しては、公立校の受験ではすべての都道府県で合格判定に活用され、私立校では当日の入試点数を重視している学校がほとんどです。
では、どのような思いをもった生徒たちが、それぞれに進学する傾向にあるでしょうか。
公立、私立それぞれに向いている生徒
【公立校に向いている?】
<主体性があり負けず嫌い>
公立校は学習面のサポートが私立校と比べると少ない傾向であるため、積極的に行動できる子が向いています。
また、公立校では教員の異動が頻繁にあるため、生徒の自主性に重んじている学校が多くあります。
そのため、学校生活を楽しむことや大学受験へ向き合う姿勢に関しては、公立校では本人のやる気次第になる部分が大きいでしょう。
<自ら勉強をする習慣がついている>
公立校は3年間で学習するカリキュラムが文部科学省で定められているため、各学校の授業内容や授業時間に大きな変化はありません。授業内容や授業時間を各学校で設定できる私立校と比較すると、大学受験の勉強の際、自分で勉強する時間を確保することが求められます。授業や補習など、拘束時間が比較的短い公立校では、私立校と比べて自ら勉強をする習慣が大切になるでしょう。
また、アルバイトに関しても私立校では原則禁止している学校がほとんどですが、公立校ではアルバイトを許可している所も多い傾向にあります。
ある程度、自由に高校生活を送りたいのであれば公立校の選択もありかもしれません。
<多様な家庭層が在籍する公立校>
公立校の特色として、多様な生活様式の中にある家庭層がいることが挙げられます。公立校への進学は私立校への進学と比較し、育ってきた家庭の生活環境や、経済環境に影響されることが少ない傾向にあります。そのため、色んな環境で育った人たちと学生生活を送ることになります。高校生活の頃から多様な環境に身を置くことで、人とのコミュニケーション能力や社交性が身につきやすいと考えられます。高校生活のうちから多種多様な背景の人たちと学生生活を送ることは、貴重な経験となるでしょう。
【私立高校に向いている?】
<豊富な進路選択とカリキュラム>
私立校は豊富なコースを選択できるため、自分に合ったサポートを受けられるでしょう。
学校によっては、進学目的だけではなく、美術系や音楽系、演劇系といったコース選択もあるため、自分が目指したい将来像のある人は、私立校がおすすめです。
また、授業や講習で積極的に大学受験対策も充実しています。私立校では、学校独自に授業カリキュラムを制定できるため、高校1年生の頃から大学受験を意識した授業をする学校もあります。
さらに、夏期講習や冬期講習、勉強合宿など公立校と比較し、授業外の学校行事のサポートも充実している傾向にあります。進学する学校によっては、予備校や塾に通わずに私立校のカリキュラムのみで難関大学に合格している学生もいるほどです。受験に専念したい気持ちがある子は私立高校がおすすめでしょう。
<部活動を本格的に打ち込みたい>
部活動を高校生活で本格的に打ち込みたいと考えている方も私立向きかもしれません。
私立校は部活動に力を入れており専用の練習場や体育館などの施設設備が充実しています。公立校と比較しても予算配分に大きな差があります。ネームバリューのある実績のある監督やコーチの招聘や、中学校時代に優秀な成績を修めた子を特待生として受け入れるなど、部活動への取り組み方が公立校とは異なります。
また、私立の強豪校は専門のコースを設置していることが多く、特化した授業・練習を実施するコースがあるほどです。部活動に重点を置いた高校生活を送りたい、将来的に活躍したいと考えているご家庭は私立校への進学をおすすめします。
<手厚いフォローが受けやすい私立校>
私立高校は、学習面での手厚いフォローが受けやすい点が特色といえるでしょう。
私立高校では志望する大学に応じたコース選択や補習・対策講座など学習面のサポートが充実していることが多く、生徒一人一人の特色に沿った学習をすることができます。
また、公立高校では教員の学校間の異動が多いですが、私立高校では異動が少なく入学してから卒業まで教員が変わらず親身になってサポートしてくれることが多いでしょう。卒業後も先生方を訪ねてくる卒業生が多いのも私立学校の特徴かもしれません。
共学校と別学(男子校・女子校)の違い
「共学校」と「別学(男子校・女子校)」の違いについてみてみましょう。
<共学校>
~男女がお互いに影響を受けあう 社会に近い環境〜
男子と女子が同じ環境で授業を受け、部活や委員会などの課外活動に打ち込む。公立の中学校と変わらない環境です。同世代の男女が学校生活を共にしますから、多様な価値観に触れる機会が多くあるといえるでしょう。私立の学校であれば、その学校の校風に馴染みやすいタイプが集まる傾向があります。
小学生の頃は男女の意識の違いを認め合えないことが多かったかもしれません。しかし、中学校に入り、高校生まで成長すると、共に精神面が発達して、それぞれの価値観を受け入れ、お互いの弱点を補えるようになってきます。たとえば、部活中心だった男子が受験期に入ると猛スパートをかけて勉強に集中する。その姿に女子が刺激を受けることもありますし、その逆もしかり。お互いに切磋琢磨し合える環境と言えるでしょう。多感な時期を異性がいる環境で過ごすことで、自然と双方がいい影響を与え合えるようになるわけです。
こういった点は実社会でも役立ちます。社会に出てからの適応性を身につけることができると言えるでしょう。
また、「学校は、社会の縮図」と考える場合、共学校を選ぶのは自然に思えるのも頷けはします。
異性が近くにいる環境だからこそ得られる経験もあります。
<別学>~男女の個の特性を活かした教育内容 のびのびとした学生生活〜
いわゆる「男子校」「女子校」です。男子と女子では身体的・精神的成長のスピードが異なります。また物の感じ方や学び方、取り組み方にも差があります。こういった男女の違いを踏まえて、それぞれの特質に適した学習・生活指導や進路指導を受けられるのが別学の魅力です。男女御三家をはじめとする難関校に別学が多いのは、こういった環境面の影響もあるかもしれません。
また、思春期の子どもたちは異性の目を必要以上に気にしてしまいがちです。でも、同性しかいない別学では異性に気をつかわずに過ごせます。性別の違いを意識せず好きなことに打ち込める、自分らしく成長していける環境です。
一方、異性との交流が少なく、適度な距離感を見つけるのが難しいのではないかという声も聞かれます。必要以上に相手を意識し、偏見的な考えをもつのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそんなことはないです。それは、男子校を卒業したわたくしの経験からしても断言できます。また、最近では社会関係での気づきを目的に、異性理解の場として、他校との交流をもつ学校も見られます。
ジェンダーの観点か、心身の発達段階の観点かを考えても、社会のジェンダー・ギャップを踏まえると、女子が安心して学べるところに女子校の存在意義があります。思春期は、男子の方が女子に比べて心身の発達が1~数年ほど遅いことが知られています。男子が安心して学べる環境としての男子校の存在意義もあるのではないかとも考えられます。
【男子校の特徴】
男子校に通ったことがない皆さんやご家族は、なんとなく体育会系をイメージしてしまうかもしれません。実際は、体育会系から文化系までいろんなタイプの生徒がいます。スポーツに打ち込む子、勉強に励む子、楽器が得意な子、アニメ好き、鉄道好き、コンピューター好きなどなど.良い意味でマニアックに追求していくタイプも、フットワーク軽くチャレンジしていくタイプもいます。異性に気をつかうことがないため、自分の好きなことに遠慮なく取り組めます。
【女子校の特徴】
女子校と言われると、おしとやか、お嬢様という印象を持たれることも多いようです。しかし、実際は良い意味で違います。たとえば、文化祭準備の力仕事も女子だけで乗り切ります。自分たちの力で創り上げるのが当たり前。そういった経験を積んでいくうちに、たくましさを身につけることができます。もちろん、個を大切に育むという教育理念を掲げる学校も多いです。しなやかな人間らしさ、物事をやり遂げる強さを習得できる環境があります。
別学校出身の人からは、「楽しかった!」という感想を聞くことが多いのも頷けます。
どんな学校に行ったら楽しい学校生活を送れるのでしょうか?
どんな学校で楽しい学校生活を送れるかは人によって異なります。公立校と私立校では授業の雰囲気や課外活動の内容など大きく違うため、どういう高校生活を送りたいかが大事になります。
また、共学校や別学校(男子校・女子校)も、思った以上の違いとマッチングがあるかもしれません。やはり、学校説明会への参加や、塾の先生や先輩にアドバイスをもらって情報収集することで、入学後のミスマッチを最小限に防ぐことができるでしょう。
そして、ご家族にも相談してみてください。
みなさんより、経験値のある身近な先生はそこにいらっしゃるのですから。
(第4回 子どもの成長と家庭・学校・社会の果たす役割に続く)
◎著者紹介
田中 正勝 先生
(日本大学豊山高等学校中学校教諭 広報主任)
・民間企業から教員に転身。進学校や実業高校を経て、20年前に母校教諭となる。
・指導部主任や学年主任を歴任後、広報の責任者として11年。
・現在は書道部・スキー部顧問。
・日大豊山の学校パンフレットの題字「日大豊山」は田中先生による筆