【連載】「高校の選び方」④〜子どもの成長と家庭・学校・社会の果たす役割〜

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日本大学豊山高等学校中学校で教鞭を振う田中 正勝(たなか まさかつ)先生。
教師として、また子育てを終えた保護者としての経験をもとに「高校の選び方」について、保護者と子ども両方に向け、イチから語っていただくシリーズです。
第4回は保護者必見、子どもの成長と家庭・学校・社会の果たす役割について語っていただきました。

 

今回のテーマはちょっと大人向けかもしれません。が、いずれみなさんも直面するテーマになるかと思います。そして、考えてほしいテーマです。ぜひ「ご家族」と一緒に読んでみてください。そして、考えてみてください。

「高校の選び方」からかなり超越した視点かもしれません。でも、これからの人生の中で出会ういろいろなものやことがみなさんの財産になるものばかりなのです。「高校」はみなさんにとって想像する社会とは違うかもしれません。でも、そこで得られるものは計り知れないほど広がりを見せてくれます。「選び方」に成功も失敗もありません。「自分が選択したんだという思い」を抱くことが、みなさんのこれからの「生活」をより良いものとしてくれるのです。

 

 みなさんが「生活」する社会集団としての最小の単位は「家庭・家族」です。そこで、みなさんはいろいろなことを学んできたのです。では、何を学んできたのでしょうか?

 

ふと振り返ると、ことば・あいさつ・食事のしかた・社会のルール、道徳心や人への心遣い、実はそんなあたりまえと思われることの多くを学んだのが「家庭・家族」からだったのです。

 


「家庭」の果たす役割と「家族」の責任とは

 

家庭は、子どもにとって最初に直面する教育の場であり、社会的な基盤を形成する大切な役割を果たしています。そこには「情緒的支援」「価値観と倫理観を学ぶ」「学習習慣の形成」「生活習慣の指導」「社会性の育成」といったようなことも学ぶ場として見えてきます。

    「情緒的支援」
家庭は子どもに愛情や安心感を提供する場所です。子どもが心の安定を保ちながら成長するためには、家族のサポートが必要不可欠です。特に、保護者が子どもに対していろいろな面からの愛情を示し、安心感を与えることがとても重要なことと考えます。

 

    「価値観と倫理観を学ぶ」
家庭は、学校だけでは学べない価値観(道徳心、誠実さ、思いやりの気持ち、努力をすることなど)を伝える場所です。家庭での教えは、子どもが社会でどのように振る舞うか、どのような人間関係を築くかに大きな影響を与えていくことになります。

 

    「学習習慣の形成」
保護者が学習の重要性を示し、日常的に学びに対する積極的な態度をもつことが、子どもの学習習慣を形成します。家庭での読書習慣や、学問への関心を高める環境作りが重要になってきます。

 

    「生活習慣の指導」
規則正しい生活習慣(食事、睡眠、運動など)を家庭で学ぶことが、子どもの心身の健全な成長に寄与しているのです。

 

    「社会性の育成
家庭は子どもが社会に出る準備をする場所でもあります。保護者のみなさんは、外の世界や他者との関わり方を教える役割も担っていると思います。

 

 

そして、みなさんは成長し、保育園や幼稚園、小学校、中学校、そして高等学校や大学などと、いままでたくさんの「学校」という社会の中で、家庭とは違う「学び」の場を経験してきましたし、これからも経験していくことでしょう。

 

では「学校」の役割は何でしょうか?

 


学校の社会的役割とは

 

学校は、単に知識を得るだけの場ではなく、次のような重要な「社会的役割」を担っていると考えられます。

    「社会的な生活を創造する基盤の提供」
学校は、社会で必要とされる基本的なスキル(コミュニケーション、協力、問題解決能力など)を育む場です。生徒は学校でさまざまな人々と接し、多様性を理解し、他者との共存の方法を学ぶ機会をもち得ます

 

    「公平な教育機会の提供」
社会は教育の機会が平等であることを目指し、すべての子どもに教育を受ける権利を保障しています。これは、社会的な格差を縮める役割も果たしているのです。

 

    「社会の価値観の伝達」
学校は、道徳や倫理的価値観(誠実、責任感、平等など)を学べる場所でもあります。また、民主主義や人権、法の支配といった社会の基本的な理念も学ぶことができます。

 

    「未来への準備」
学校は生徒に、社会で働くために必要な知識や技術だけでなく、人生全般における適応力や創造性を養う場でもあります。これから経験する変化の激しい社会に対応するために、柔軟で批判的思考を育むことが求められています。

 

そこでみなさん「生徒」自身が学ぶことは何でしょうか?

 

生徒は学校でさまざまなことを学びますが、単なる知識の習得だけでなく、次のようなことも重要です。

    「思考力と問題解決能力」
学校で学ぶ生徒は、批判的思考力や論理的な問題解決能力を養う機会をもちます。これからの時代、単なる知識の暗記ではなく、柔軟な思考と適応力が求められているのです。

 

    「協力することとコミュニケーションの大切さ」
グループ活動やさまざまな行事や部活動等を通じて、他者と協力し、情報を共有し意見を交換する力を養います。いろいろと仲間や先生とぶつかることもあるでしょう。でも、社会に出ると、チームで働く能力が重要になってきます。その力をつけて行くのです。

 

    「社会的責任と倫理観の創造」
他者を思いやる心、倫理的な判断力、社会的責任を学びます。これからの社会では、単なる個人主義ではなく、共生と協力が大切になってきます

 

    「適応力と創造性」
急速に変化する社会においては、新しい問題に柔軟に対応する能力(適応力)や、独自の解決策を見つけ出す創造力が必要不可欠になってきます。こたえは一つに限りません。多角的な思考も大切になってきます。

 

 

「家庭」「学校」とみなさんが生活する範囲がどんどんと大きくなってきました。そこでは「家族」だけでなく、いろいろな場面でたくさんの方々と出会ったことでしょう。でも、すべての人が自分と「橇の合う(そりのあう)」人だったとは限りません。ときには、自らと違う環境に身を投じ、違う考えや価値観をもち、気が合わないと思える人もいたことでしょう。でも、それもみなさんを成長させてくれるひとつのきっかけになっていたに違いありません。それが「社会」なのです。

 

それでは、みなさんが生活をする「社会」の役割は何でしょうか。

 


「社会」の役割 とは

 

人間は「社会的動物」と言われたりします。みなさんが誕生日を祝ったり、祝われたりするのは、人間ひとりひとりが「社会的存在」だからです。

 

社会的存在といえば、「人間は社会的動物である」という言葉をよく耳にします。この言葉を述べたのは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスであると言われます。

アリストテレスが言ったのは、人間は、自己の自然本性の完成をめざして努力しつつ、ポリス的共同体(「善く生きる」ことを目指す人同士の共同体)をつくることで「人間の完成」に至るということでした。これは、他の動物には見られない人間に特有の独特の自然本性であると考えたのです。

 

2011311日の「東日本大震災」の直後に「人間は社会的動物である」という考えが巡りました。それは、東日本大震災の発生直後から、多くの人々が「隣人愛」すなわち「社会のなかで助け合う力」を発揮する瞬間を垣間見たからです。なぜ、世界中の人々は隣人愛を発揮するのでしょうか

 

その答えは簡単です。それは、人類の本能だからです

 

「隣人愛」は「相互扶助」につながります。「助け合い」ということですね。「人」という字は互いが支えあってできていると言われます。互いが支え合い、助け合うことは、じつは人類の本能なのです。

 

アリストテレスの言葉「人間は社会的動物である」ですが、近年の生物学的な証拠に照らし合わせてみると、この言葉はまったく正しかったことがわかります。

 

結局、人間はどこまでも「社会」を必要とするのです。

 

人間にとっての「相互扶助」とは生物的本能であるとともに、社会的本能でもあるのです。人間がお互いに助け合うこと。困っている人がいたら救ってあげること。これは、人間にとって、ごく当たり前の本能なのです。

 

 現代の社会では、経済システムや情報システムなどを中心に、効率化の追求が進んでいます。しかし、社会を生きづらいものにしないためには、社会の構成要素たる人間は何よりまず「個人」であることを自覚し、それぞれが「個人」を大切にする、という視点を忘れてはならないでしょう。

 

 


これからの世の中で大切なこと…

 
これからの時代において、特に大切なことは何でしょうか?

 

時代は急速に変化しています。そんな中で「自分」をしっかりと表現できる、そのためにみなさんは学んでいるのです。知識を習得するだけではなく、それを活用し表現して行く。みなさんにもってほしい力をつけるところは「家庭」でもあり「学校」でもあり「社会」でもあるのです


これからの時代、社会の求める要素は果てしなく拡大をみせて行くことでしょう。そんな中でAIとテクノロジーの活用」は大きなポイントになることは確実です。デジタル化が進む時代において、テクノロジーの理解と活用能力はますます重要になります。AIや自動化の時代を生き抜くためには、技術に対する柔軟性と倫理観が求められます。

そして、「多様性と共生の社会」も進んで行きます。グローバル化が進み、多様な価値観や文化が共存する社会となっています。異なる意見や文化を尊重し、共生していく力が必要です。

また、「持続可能性と環境意識」も求められます。環境問題が深刻化する中で、持続可能な社会を築くために、環境に対する意識と行動が大切となってきています。これからの世代は、環境保護と資源管理を意識した生活を送る必要があります。

学びの面でも「自己成長と終身学習」がテーマになります。情報や技術の変化が速いため、学び続けること(終身学習)の重要性が増しています。自分をアップデートし続け、柔軟に社会に適応できる力を養うことが求められます。

最後にもっとも大切なのは人間らしさをもち続けること」 と考えます。テクノロジーの進化に伴い、感情や共感、コミュニケーションの重要性がますます増してきます。人間らしさを保ちながら、テクノロジーとの共存を目指すことが大切です。

 

結局、これからの社会では「柔軟性」「創造性」「共生」「倫理観」が鍵となります。学校家庭、そして社会全体が協力し合って、次世代にこれらの価値を伝え、支え合うことが必要です。

 

 

これからの問いは、教育や社会における学校、家庭、家族、そして生徒自身の役割について、そしてこれからの時代において何を大切にするかです。

それぞれの視点から見ていくことで、何か大きな壁に直面した時に解決の糸口が見えてくるのではないでしょうか。

 


今回の最後に…

 

大切な時間

時間というのは、ただ過ぎていくものではなく、どれだけ自分がその瞬間を大切にできるかにかかっています。学校での毎日、家族と過ごす時間、友だちと笑い合う時間、それらはどれもかけがえのない瞬間です。急いで次のことを考えるのではなく、「いま」を楽しんで、大切に過ごしてください

 

友だち、財産、経験

友だちは、あなたの心の支えになります。時には一緒に笑い、時には悩みを分かち合うことができる存在です。良い友だちをもつことは、あなたが大人になってからも、大きな力になるでしょう

また、あなたがこれから得る「経験」は、どんなものよりも貴重な財産です。どんな小さな経験でも、それがあなたを豊かにし、強くしてくれます。失敗しても、そこから学べることはたくさんあります。すべての経験が、あなたを成長させる素晴らしい宝物なのです

 

優しい言葉で

どうか、自分に対して優しい言葉をかけてあげてください。誰でも、戸惑ったり、躓いたり、うまくいかないことがあります。でも、それで自分を責めないで。あなたには無限の可能性があるから、どんな困難も乗り越えられる力がきっとあります。そして、周りの人々にも優しい言葉をかけてあげてください。あなたのその優しさが、きっと誰かを元気づけ、あなた自身にも大きな力を与えてくれるはずです

 

これからのあなたの人生では、たくさんの素晴らしい経験が待っていることでしょう。

どんな瞬間も、大切にして、心から楽しんでくださいね。

 

(第5回に続く)


◎著者紹介

田中 正勝 先生

(日本大学豊山高等学校中学校教諭 広報主任)

・民間企業から教員に転身。進学校や実業高校を経て、20年前に母校教諭となる。

・指導部主任や学年主任を歴任後、広報の責任者として11年。

・現在は書道部・スキー部顧問。

日大豊山の学校パンフレットの題字「日大豊山」は田中先生による筆

 

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