【連載】不登校的ライフスタイル中学生のためのライフプランニング③〜将来を見据える〜

都立高校校長を退職後、現在は学校運営に携わる傍らボランティアとして主に不登校の生徒の進路相談員としても活動している宮川隆史(ミヤカワタカシ)先生。
このシリーズは、現在それぞれの事情で不登校というライフスタイルを選択している中学生を対象に、これから先の未来をどのように考えていけばいいのかを連載でやさしく語っていただきます。
第3回は、将来を見据える上で、“どんな職業につくか”、そして“不登校的ライフスタイルをどうするか”を考えるためのポイントについて語られています。

 

第3回 将来を見据える

 

生きていくために

 中学卒業後の進路を考えるためには、さらにその先のことの見通しを立ててみる必要があります。

 

 最初のところで述べた様に、どこかの時点で『自立』、とりわけ「経済的に自立」していくことを目指さなければならないとすると、いつごろまでに何をすればその目標に近づけるかを考えておかなければならないわけです。一般的には、自分で、あるいは誰かとともに生活していくための費え(お金)を得るための手段を持つようになる(多くの場合は何らかの職業に就く)ことが必要になるのです。

 


職業選びの実際

 中学生の時点で、「どんな職業に就きたいですか?」という質問に明確な回答を持っている人はあまり多くはありません。それでも一般的には専門性の高い職業ほど、早くから準備を始めないと、なかなかその分野のプロフェッショナルとしての将来は実現しにくいというのもまた現実です。

 

 音楽(特にクラシック)やスポーツを職業としていくためには、幼少期からスキルと経験を磨いていかないとほとんど実現不可能という例が挙げられます。例外はありますが、一般的には大人になってからゼロから始めることはほぼ困難と言えます。

 

 そのような基本スキルや経験の積み重ねがものをいう分野を除くと、日本社会では「どんな職業?」への回答は保留して後回しとしていく傾向があります。したがって、中学生の時点で答えられないのはごく普通のことだと言えます。

 


決まっていなのが普通

実際には高校卒業時点でもまだまだ「具体的な職業イメージを定められない」方が主流で、大学生になる方の多くも、先を見据えてと言うより、その時点での学校での授業科目の好き嫌いや得手不得手、自分の受験学力等をもとに大学選択や学部選択をされる方の方が主流であるのが現実です。また、高校選択で専門学科を選んだり、高校卒業後に専門学校に進学される方々の場合でも、将来の具体的職業をイメージしてその専門を積極的に選択している方は、必ずしも主流とは言い切れないと思います。そういう現実があまりよろしくないと考えられて、各学校段階で「キャリア教育」と呼ばれる活動が盛んに行われていますが、まだまだそれほど大きな効果が得られているようには思えません。

 

 これまでの日本社会では、目標を定めて準備を進めて職業人としての自分の専門性を身につけていくというケースより、たまたま就職した会社等でたまたま配属された部署で必要な専門性を高めて「その道のプロ」になっていったり、あまりそういうことも考えずに、なんとなく与えられた職業の職責を果たし続けていくという方々の方が意外に多く、そういう場合には、結局自分で積極的に職業の専門性を選んでいるわけではなかったことになります。

 

 自分のこれからを考えるにあたって、将来を見据える~何らかの職業に就くという視点でお話してきましたが、ここまでお話ししてきたように、どの時点で方向性を選択していくか、どの程度目標を具体化していくか、そしてその準備を進めていくか、ということになると思います。

 


可能性を狭めないように

 ただ、「なりたい」と「なれる」にはギャップがあるのは事実で、具体的目標を持つことがプラスにもマイナスにも働くことがあります。また、職業の向き不向きは結局は「やってみないとわからない」要素がかなり多いということも事実ではあります。

 

 単純化してまとめると、具体的に専門的な職業に就きたいという希望があれば、出来るだけ早く準備を進めていけば実現可能性は高まっていきますし、そうでなければ出来るだけ将来への可能性を狭めないようにしていくことが大切だと思います。

 


『不登校的ライフスタイル』が認められつつある

 つい最近まで、みなさんの様に『不登校』という状態にある方々は『ふつう』ではなく、学校による指導や公機関によるカウンセリング、医療などによって『ふつう』に戻していかなければならないという考え方が主流でした。

 

 それに対して、多様な生き方在り方を認めていこうとする現在では、『不登校』が必ずしも特別な状態でなく、選択された一つのライフスタイルであるという考え方が市民権を得てきています

 

 言い方を変えれば、日々学校に通うのがあたりまえとは必ずしも言えないので、『ふつう』に戻すのではなく、そのままでやっていけるしくみが公的機関も含めて考えられ、そのための各種のサービスが提供されるようになってきているわけです。

 

 近年、IT機器や各種システムやAIの活用等が急速に進化を遂げ一般に幅広く普及し、私たちのライフスタイルは大きく変わってきています。

 

 こうした状況の中で、コロナ禍を経て、人と人が直接かかわることなく(=オンラインでも)出来てしまう仕事がとても多いということが確認され、学校社会でもオンラインである程度は事足りることを経験してきたことによって、『不登校的ライフスタイル』という生き方も十分に成り立つことが実証されたことが上記の様な流れを加速してきたと考えられます。現在では既に、場合によっては『不登校的ライフスタイル』を生涯貫くことも可能になっているということが言えると思います。

 


社会の実際

 そうは言っても、「人と人が直接かかわることによって物事が進んでいくこと」やそのために「学校や会社等に日々通うこと」がまだまだ主流であることに変わりはありませんし、オンライン中心で動いて行っても、いざという場面ではやっぱりオフラインでということがありますし、『おとな』には一定の社会性が不可欠である面も変わりません。

 

 また、私たちの様にこれまで「日々通うのがあたりまえの学校」で仕事をしてきたものからすると、「最低限のスクーリングとテストさえ受ければ、あなたのペースで簡単に単位が修得出来て高校卒業が可能です」というようなメッセージをあまり信用できないし、確かに卒業はできるシステムではあるのだろうけれど、そこでの学びはいかがなものかという疑念を抱いてしまうわけです。

 

 教科の授業の単位修得ということだけに目を向ければ効率的なものではあるのでしょうが、学校というのはそれだけのものではなく、『隠れたカリキュラム』と呼ばれてきた、学校生活の中での様々な人と人とのかかわりを通して生徒のみなさんが自分を磨き、多くのものを学んできたことが、むしろ学校の存在価値であると考えてしまいます。そう考えると、今すぐではなくても、やっぱりどこかの時点で『ふつう』に戻っていくことが、みなさんの可能性を高めていくことに繋がるのではないかとも考えてしまいます。

 

 もちろん、そうした学校というシステムの良さを十分に機能させることが出来ずに、学校に日々通う意味を見出せなくなったり、行くことによって嫌な思いを強いられたりする硬直化した学校を改善できずに来た学校運営側の責任は大変大きく、変わるべきはみなさんというよりはむしろ学校の側であるという面もあることもまた事実であると思います。これは、学校にとどまらず企業や公的機関等社会全般について言えることだと考えます。

 


これからを考える

 そのようなことを踏まえながら、みなさんは『不登校的ライフスタイル』をどこまで貫くのか、どこかのタイミングでどの程度『ふつう』に近づいていくことを目指すのか、の見通しも立てた上で、自分自身のこれからを考えていっていただく必要があると考えます。

 

第4回〜進路選択〜に続く)

 


◎著者紹介

宮川隆史 (ミヤカワ タカシ) 先生

元都立高校校長・元上海日本人学校高等部校長

・現在は都立学校副校長マネジメント支援員、通信制高校非常勤講師

・社会科から家庭科に転科し、ジェンダー問題がもう一つのライフワーク

・ボランティアで中学生の進学相談員を15年以上続けている

・世田谷泉高等学校の立ち上げに関わったほか、教員として、管理職として、また親としても不登校事例に対応してきた